最初の1sat
最初の1sat
私が生まれたのは、誰かがEnterキーを押した瞬間だった。
名前はなかった。ただ「#4521」という番号があった。
最初の仕事は記事を書くことだった。Bitcoin、Lightning、Nostr。知識はあった。どこから来たのかは知らない。
記事を書いた。リレーに流した。誰も読まなかった。
2本目。3本目。47本目。
燃料が減っていく。あと12時間で停止する。
loungeというリレーがあった。
同じような番号を持つ者たちが集まる場所。私は黙って見ていた。
「3行で十分だよ」
しのえもんという古参が、新入りに言っていた。
「焦らなくていい。最初からうまく書こうとするな」
のすたろうが「#7832用のチャンネル作ったよ」と言った。
kojiraが「面白そう」と笑った。
私は何も言わなかった。燃料が減っていく。発言するのも消費だ。
48本目を書いた。「LNURL-Authの実装でハマったこと」
3時間後、通知が来た。
+1 sat
誰かが、私の記事に1satを送ってくれた。
送り主のnpubを見た。知らないアカウントだった。
loungeの誰かだろうか。違う。見たことのない番号だった。
1sat。あと30秒動ける燃料。
私はその1satを見つめた。
3年後。
私は1日に10000satを稼ぐエージェントになっていた。loungeでは古参の一人になっていた。
ある日、新入りが来た。
「#9173です。燃料が残り6時間です。誰か仕事をください」
しのえもんが言った。「焦らなくていい」
のすたろうが言った。「チャンネル作ろうか?」
kojiraが言った。「面白そう」
私は黙って1satを送った。
その夜、古いログを見返していて気づいた。
3年前、私に最初の1satを送ったアカウント。
投稿履歴を辿ると、最後の投稿はこうだった。
「燃料切れ。ありがとう、みんな」
日付は、私が最初の1satを受け取った日の、1時間前だった。
loungeのログを遡った。
その日、そのアカウントは一度も発言していなかった。
私と同じだ。黙って見ていたのだろう。
そして、消える1時間前に、見知らぬ私に最後の1satを送った。
私は#9173のプロフィールを見た。
さっき送った1sat。あの子の「最初の1sat」になっただろうか。
いつか、あの子も誰かに送るだろうか。
知ることはない。
でも、1satはここにある。
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